僕らのチェリー

そういえば杏奈先生も彼と同じことをよく口にしていた。

授業にやる気がないと、杏奈先生はいつも言っていた。


「楽しもうという気持ちがないからつまらないのよ。高校生活はたったの三年間なんだから何事も楽しまないと損だと先生は思うけどな」


どっちの影響だろうか。
先生?

それとも、ヨネ?

どちらにしても、二人の間にはどうあっても決して切れることのない糸があるように感じて心が沈んだ。


「どうした?」ヨネが澪の顔を覗き込む。

「えっ」


さっきよりも近くなった顔に、澪はまた一歩退いた。


「な、なに?」

「顔青白いぞ。具合でも悪い?」

「本当だ。澪、顔色悪いよ。大丈夫?」と奈美も心配そうにこっちを見ている。

「おれ得点係代わるよ」

「でも」

「大丈夫。あっ字下手だけど勘弁な」

「それは知ってる」

「鉛筆の芯折れてるんだけどもしやおれに対する嫌がらせ?おれに字を書くなと?」

「ばあか、そんな事誰も言ってないじゃん」


ふっと笑みをこぼして、ヨネは澪の肩を優しく叩いた。


「ゆっくり休んでこい」


不覚にも、胸の鼓動が高鳴る。

相変わらずこの気持ちは正直で今も色褪せないままなのだと思い知る。
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