僕らのチェリー

結局、ヨネに促されるままに澪は休憩をとることにした。

顔色を確認がてら、トイレに向かおうと廊下に出ると、雨の日独特の香りがした。

ひんやりと冷たい風が心地良い。


「どうしたー」


あっ、と澪は驚いた。

奥にある男子トイレの前で恭介が堂々と煙草をふかしている。

最悪だ。


「おーい」


近づいてきた恭介を無視しながら女子トイレに入ろうとすると彼も後を追ってきたので、澪は仕方がなく廊下に戻った。


「具合悪いから話しかけないでくれる?」

「あれ、なんか怒ってる?」

「別に怒ってない。それより煙草消しなよ。先生に見つかったらあたしも停学にさせられるじゃん」

「ああ、悪い」


恭介はジャージのポケットから携帯灰皿を取り出して、火を消した。

まだ微かに煙草の香りが残っている。

しばらく沈黙がただよう中、恭介は言った。


「ヨネとなに話してたん?」

「なにが」

「さっきヨネと楽しそうに話してたじゃん」


そばにある扉のわずかな隙間から、ヨネが奈美と一緒に点を数えている姿が見えた。


「別に。何でもない」

「ふうん」

「あんたは?さっきヨネと何話してたの」

「聞いてたくせに」


図星をつかれ澪が口を噤むと、恭介はにやにやと怪しい笑みを浮かべながら、その場に腰を下ろした。
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