僕らのチェリー

ふと、桜の花びらが目の前を通り過ぎた。

それは淡い淡い、桃色。

どうしてこんな処にあるのだろう。

桜の木は、遠くに立っているのに。風にのってここまで飛んできたのだろうか。

坂の向こうで彼が手を振っていた。

私はそれに応えようと手をあげる。

しかしどうしてか私の手はまるで金縛りにあったように動かない。


「明日会える?会って話したいことがあるの」


そういえば昨夜、彼と久しぶりに会えるあまりの嬉しさと興奮で眠れずにいたとき、彼女から着信があった。

私はあしたは彼とあの校舎で落ち合う予定だと伝えた。

彼女は残念そうにしていたが、私が「明後日はどう?」と訊くと喜んで了承してくれた。それからしばらくたわいもない話をして、最後に彼女がこんな事を言っていたのを思い出した。


「あしたのデート楽しんできてね」

「ありがとう」

「じゃあまた明後日に」

「ええ、明後日に会いましょう」

「あ」

「どうしたの?」

「気をつけてね。あの場所は桜の名所だけど事故も多いから」


ここの桜並木道は春の季節になると、見物客が絶えない。

桜に見とれてしまうあまりだろうか。

彼女の言うとおり、交通事故が絶えない場所でもあった。
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