僕らのチェリー
「違う違う。デートじゃなくて彼に案内してもらってただけよ」
「案内?」
「そう、橘君の家をね」
「橘って橘恭介?」
廊下側の列に、空席の目立つ机がある。
そこが恭介の席だ。1年の時から遅刻が多かった恭介は、当時も評判は良くなかった。
「そう、最近学校来ないでしょう?本人に理由を聞いても流されるばかりだし。だから彼と一番親しい米原君に詳しく聞いてたの。彼は橘君と家が近所で、小さい頃からの幼なじみらしいから」
「そうか。だから米原君の家の近くを歩いていたんだ」
澪と奈美は納得したように頷いた。
ふふっ、と先生が笑う。
「これで誤解はとけた?」
「疑ってごめんね。先生」
「いいのよ。あ、その代わりといったらなんだけど、放課後にこの連絡用紙を橘君の家へ届けてもらえないかしら。
きょう先生職員会議があるの。
お願いできる?」
差し出された黄色い紙に先生のきれいな字が並んでいる。
"橘恭介君へ"と書かれてあった。
澪と奈美はそれほど恭介と親しいわけじゃなかったが、先生を疑った罪滅ぼしのつもりで放課後彼の家へ向かった。