僕らのチェリー
「誰?」
インターホンを鳴らすと本人らしき若い男の声がした。
クラスメートだと言うとガチャン、と無愛想な不通音が耳の奥を貫いた。
「なにこの男。人が連絡用紙届けてやったというのに、今の態度はなくない?」
恭介は遅刻常習犯のほかに愛想が良くないこともあって、クラスの評判は悪かった。
噂どおりの冷たい反応に澪は奈美と散々愚痴をこぼした覚えがある。
連絡用紙をポストに入れて帰ろうとすると、柵の向こうで扉が開いた。
「あっ」
澪と奈美は目を大きく見開いた。
「ごめん。あいつ疲れてて寝てるもんだから。俺が代わりに受け取るよ」
そう言って連絡用紙を手にしたのは米原大志だった。
聞けば、彼は幼なじみという関係もあって、よく恭介の家に上がり込んでいるらしかった。
「米原君も大変だね。あんな無愛想な幼なじみもっててさ」
と奈美が嫌みったらしく言う。
「ははっ、もう一緒にいて何年もなるし。俺は慣れたよ」
そう答えた彼の笑顔はまるでぱっと花が咲いたようで、思わずどきり、とした。