僕らのチェリー
「それでバイトして一週間になりますが革命はおきそうですか?」
と澪はふざけてインタビューの真似をしてみせた。
「そうですね。おれの得意の営業スマイルで客が寄ってくると思っていたんですが、よくよく考えてみると深夜にシフトをとってしまったので、スマイルを見せるどころかまず客が来ません。残念」
「あはは、ばかじゃん」
「どうせおれはばかですよー」
しばらく人も来ない中で彼とくだらない話で盛り上がっていると、店内に音楽が流れていることに気が付いた。
それはカラオケでよく歌っている曲。
この曲を歌うと、周りの評判がよく、いわゆる澪の十八番というもので、澪は自然と口ずさんだ。
すると、
「この曲、好きだったなあ」
とヨネが小さな声でそっと呟いたのを澪は聞き逃さなかった。
誰が好きだったかなんて、聞かなくてもすぐに分かった。
曲が終わって別の曲が紹介され流れると、ヨネは煙草の整理を始めた。
そんな彼の背中を見つめながら澪はゆっくりと口を開いた。
「じゃあさ、あたしが毎日ここに来たげるよ。ヨネのスマイル見に」
「革命に同情はいりません」
「同情なんかじゃないよ。ヨネの笑った顔、あたし好きだから」
そう言うと、ヨネは手を止めた。
それから困ったように眉を寄せながら、照れ笑いを見せた。
「ここに一人、スマイル革命成立だな」
ふふ、と澪も笑った。