僕らのチェリー
きっと、彼は知らないだろう。
今、あたしがどんな気持ちを抱いているかなんて。
高まる鼓動が鳴り止まない。
きっとこの理由を、彼がこの先知ることはないだろう。
ふと、澪はここに来た用件を思い出した。中にある携帯電話が脳裏に浮かぶ。
どうしようか。
返そうか。
返すとこの場が気まずくなりそうで、なかなか鞄から出すことができない。
でも返さなければ。
「ヨネ」
その時、タイミングの悪いことにベルの音が鳴った。
「きょうは珍しく客入ってるじゃん」
最悪だ。
ここで鉢合わせになるとは思っていなかっただけにうんざりする。
彼が入ったとたんに、煙草の香りが過ぎた。
「おう、キョウ。今休憩?」
ああ、と恭介はお弁当の品定めを始めた。