僕らのチェリー
ヨネから聞けば、この近くにもう一店舗あるコンビニエンストアで恭介も深夜にバイトをしているらしい。
休憩の時間になると、ちょくちょくこうして遊びに来るそうだ。
「澪、奢って」いきなり恭介がお弁当をよこしてきた。
「なんであたしが。あんたバイトしてるんだからそれぐらい自分で買いなよ」
「ケチ。今月苦しいんだよ」
「だからって笠原に奢らせるな。はい、会計398円ね」
「ちぇっ」
軽い舌打ちを残し、恭介はしぶしぶとヨネにお金を渡すとそのお弁当の入った袋を持って外に出ていった。
「あ、キョウ待てよ」
突然ヨネが思い出したように恭介の後を追いかけていってしまい、店内は澪一人に残された。
窓ガラスの向こうで二人が何やら話し込んでいるのが見える。
一体、何だろうか。
しばらくの間、澪は店内を見渡した。
誰もいない店内にBGMだけが流れている。
なんだか変な感じがした。
このまま万引きしても誰にも気付かれないほど、ここはあまりにも無防備過ぎる。
この静かな空間で、ヨネは一人で何を考えているのだろうと思った。
ベルの音が鳴る。
戻ってきたヨネの隣には、なぜか恭介も立っていた。
しかもいつもより不機嫌な表情だったので澪はたじろいだ。
「笠原、この近くに住んでるんだろ?外暗いし女一人じゃ危ないからキョウに送ってもらえよ」