僕らのチェリー

暗闇の中、自転車のライトを頼りに澪は恭介と夜道を歩いていた。

恭介はさっき買ったお弁当のおにぎりを黙々と食べ続けている。

彼と顔を合わせるのはあの雨の日以来で、未だに関係は気まずいままだった。

ヨネは優しいけれど、この時ばかりはその気遣いを恨んだ。


「もういいよ。あんたまだバイトあるんでしょ。もうここでいいから戻りなよ」


恭介は黙っていた。

そのまま、すたすたと前を歩く恭介に澪はため息を吐いた。

夜空は三日月が光っている。

それを見上げていると、恭介がやっと口を開いた。


「ヨネになんか用だったん?」


澪は自転車のかごにある鞄に視線を落とした。

結局、携帯電話は返せずじまいだ。


「別に。ただ遊びにいっただけ」

「ふうん」


しばらくして恭介は二個目のおにぎりを頬張りながら、もぞもぞと口を動かした。


「なに?何言ってるか分かんない。食べるか喋るかはっきりしてよ」


恭介は無理矢理それを飲み込むと、また口を開いた。


「この間のことごめん」

「この間のこと?」


ふいに雨の記憶が脳裏を過ぎった。


「一番関係ないくせにその出しゃばる癖なんとかしたら?ヨネが好きなのはおまえじゃなくてアンナ先生なんだから」


あの日のことを謝っているのだろうか。
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