僕らのチェリー
「ちょっと言い過ぎた」
「別に。気にしてない」
澪がそっけなく答えると、恭介は拗ねたように顔を背けた。
「そうかよ」
いつものことながら、恭介に謝られると気恥ずかしさを感じる。彼は口は悪いが、謝るところだけは素直だった。
長い沈黙の中、澪の家はすぐそこにあった。
「じゃあな」
「あっ恭介」さっき歩いた道を戻ろうとする恭介を澪は呼び止めた。
「ちょっと相談があるんだけど」
「相談?」
澪は鞄に手を伸ばし、それを取り出した。
「この携帯電話、ヨネのなの。色々あってあたしが持ってるんだけどなかなか返すきっかけが掴めなくて。
…ねえ、ヨネに返したほうがいいかな?」
恭介はその携帯電話をしばらく見つめた。
そして、
「返したほうがいいんじゃねえの。ヨネのなんだし」
とあっさりとした答えが返ってきた。
「…あ、ははっ、そう、…だよね……」
澪は苦笑するしかなかった。
確かにこの携帯電話はヨネのものだ。
悩むことはない。
ただ返せばいいだけの話だ。
なのに、どうしてあたしは未だに彼に返せずにいるのだろう。
「なんだったら、俺が返してやろうか」
見かねた恭介が携帯電話に手を伸ばしてきたので
「いい。自分で返す」
と、とっさに澪はそれを鞄の中に押し込んだ。