僕らのチェリー
遠くで野良犬の遠吠えが聞こえる。
暗闇であまり見えない恭介の口元が、かすかに笑っているのが分かった。
「なに、笑ってんの」
「別にただの思い出し笑い」
「何を思い出していたのよ。変態」
くっくっくっと恭介の肩が揺れる。
「また来いよ」
「どこに」
「ヨネのコンビニ」
「なんであんたが言うのよ」
「おれも行くし」
「じゃあ行かない」
「嘘つけ。また来る気だろ」
「…うるさい。もう寝る。じゃあね」
玄関のドアを開けると、点けっぱなしだった電気の光で、暗闇に明かりが差し込んだ。
「おやすみ」
恭介の顔がはっきりとよく見える。
「ありがとね。バイト頑張って」
そう言って澪が扉を閉めるまで、恭介はずっと憎たらしい笑みを浮かべていた。
その日の夜、澪は不思議な夢を見た。
とてもとても不思議な夢だったことは分かるのに内容はうろ覚えで、はっきりと覚えていない。
おかげで、翌日の朝は寝不足だった。
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