僕らのチェリー
第一章
1.最後の電話
桜の木は満開に咲いていた。
風でゆらゆらと揺れている花びらが次々と散っていく。
きのうの雨でできた水たまりに浮かんでいるその一斤を手にとって、笠原澪はそれを眺めた。水が染み込んでどこか青味がかかっている。
その時始業を告げる学校のチャイムが鳴り、澪はそれをポケットの中にしまうと校門へと走った。
「ねえ笠原さん。知ってる?桜の花はね、薔薇の花と同じ仲間なんだよ」
澪は足を止めた。
誰かが自分を見ていたような気がしたから。
恐る恐る振り向くと、桜の木がそこにあるだけだった。
「気のせい、か」
腕時計を見ると針はすでに9時を過ぎており、澪は急いで昇降口へと向かった。
「ねえ笠原さん。知ってる?桜の花はね、薔薇の花と同じ仲間なんだよ。
だから桜の花は桃色じゃなくて、本当は紅色が隠れた色なのかもしれないね。
不思議ね」