僕らのチェリー
その日の夜、澪はまたあの夢にうなされていた。
「彼の時間を返して」
はっと目が覚める。
携帯電話の着信音が、けたたましく鳴り響いていた。びっしょりと汗で濡れた額を拭い、画面を見ると澪は慌てて電話に出た。
「もしもし恭介?」
「ああ」
「どうしたの。こんな夜中に」
時計の針は深夜の三時を指している。
「いや、暇だからかけてみた」
「暇ってあんた、普通だったら人が寝てる時間だよ」
「うん、起こしてみた」
「まあいいや。ちょうど寝れなかったところだし」
「…」
「なに?」
「いや、眠れねえの?」
「うん、毎晩悪夢にうなされてる」
「ふうん。先生の怨霊だったりして」
「…」二人の間に沈黙が流れた。
「ごめん、冗談」
「…分かってる」
電話の向こうでラジオらしき音がかすかに聞こえ、きっと恭介のバイト先で流れているBGMだろうと思った。