僕らのチェリー
「それよりあんた、今バイト?」
「ああ。さっきヨネが来て聞いた。おまえらずっと教室で待ってたんだって?」
「そうだよ。でも結局あんた戻ってこなかったし先に帰ったけど。で、どうなったの?」
「一週間の自宅謹慎」
「…そう」
さらりと言いのける恭介は、実は常習犯だったりする。
一年の時も煙草が見つかって何回か謹慎処分を受けていた。
だが、今回のことは恭介が全面的に悪い訳ではないのに、澪はなんともいえない気持ちに覆われていた。
佐藤に対する怒りももちろんある。
ただ心の中で恭介が代わりになってくれたおかげで、ヨネが処分を受けなくて良かったという安心感が少なからずあった。
「そうだ。昼間言い過ぎた。ごめん」
思い出したように、恭介が言った。
「昼間って?」
「秋谷のこと」
ああ、と澪も思い出す。
喧嘩のことがあってすっかり忘れていた。
受話器の向こうで恭介は申し訳なさそうに何度もごめん、と謝った。
「もうその言葉聞き飽きた。謝るぐらいなら、これからはもう少し言葉選んでから物事話したらどう?」
「そうするわ」
「嘘ばっか」
顔は見えないが、恭介が笑みを浮かべているのが分かる。
日が明けたら、恭介は相変わらずの毒舌を吐くに決まっていた。
澪はふう、と息を吐いた。
「おれから先輩にそれとなく話してみるよ」
「逆らえないんでしょ」
「だからそれとなく」
「まあ、期待しないけどね」
「それ、助かる」
と恭介が小さく笑った。