僕らのチェリー
時計を見ると時間の流れは早く、いつの間にか五時を指している。
カーテンの向こうが、ほんのりと明るくなっていた。
窓を開けると、光の眩しさに目を細める。
朝日が今にも顔を出そうとしていた。
「ねえ、恭介」
「なんだよ」
澪はぽつり、と小さく呟いた。
「アンナ先生が戻ってくるといいのにね」
「…」
「何もかも、あの事故も全部なかったことにできればいいのに。
そうしたら、先生は戻ってくるのに。
そうしたらあたしもこんな苦しい思いしなくて済むのに。
ねえ、アンナ先生はもう戻ってこないのかなあ」
恭介は黙っていた。
しばらく無言が続いて、受話器からは彼の冷たい言葉が返ってきた。
「戻ってこねえよ。ずっと、一生」
そうなんだ。
恭介の言うとおり、先生はもう二度と戻ってこない。
奇跡なんて決して起きない。
先生はもう。
二度と。
一生。