僕らのチェリー

それから一週間後、奈美は彼氏と別れた。

突然向こうから別れを切り出されたそうだ。

奈美は最後まで本当のことを口に出そうとしなかったけれど、どこかすっきりした奈美の笑顔を見て、澪はそれでいいと思った。

言いたくない過去を無理矢理こじ開けようとしたくない。

それは佐藤がヨネにしたことと同じことだ。

奈美の彼氏を説得したのは、きっと恭介だろう。

お礼がしたかったけれど、謹慎期間が過ぎても恭介は学校に来なかった。


「席に着けー」


午後の授業が始まり、澪は廊下側の列にあるヨネの席を見つめる。

一番前にも関わらず、ヨネは周りと会話を交わしていた。

彼は笑っていた。

ついこないだ、暗い教室で見せた彼の弱々しい姿はもう微塵もなかった。

今、彼はどんな気持ちなのだろう。

好きな人が目の前からいなくなる心境は、考えても考えても想像がつかない。

きっとあたしはこの先もその答えを知ることはないだろう。

けれど、彼を見ているだけでその答えがひしひしと伝わってきた。

笑っているのに、どこか空っぽで、彼の笑顔が全て偽物のように思える。

先生の事故を「不運」の一言だけで済ませることはできない悲しみがそこにある。
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