僕らのチェリー
本当なら今頃教壇に立っていたのは宮田杏奈先生だった、と2年3組を担当する伯方先生が言った。
「宮田先生は今年初めて担任を任されることに大変喜んでいました。
早く君たちに会いたい。
早く君たちと打ち解けたいと何度もそう言って、今日という日を待ちわびていたんだよ。
それなのにあんな事故が起こって。
先生はとても残念です」
横ですすり泣く声がした。
見ると秋谷奈美が大きな目を真っ赤にして、うつむいている。
「奈美、大丈夫?」
澪がハンカチを差し出すと、奈美はそれを受け取りながら首を小さく横に振った。
大丈夫、じゃなさそうだ。
澪は机を寄せて奈美の背中をさすった。彼女の小さな背中がかすかに震えている。
朝のホームルームが終わって伯方先生が教室を出たあとも、奈美はずっとハンカチに顔を埋めて泣いていた。
きょうは始業式だった。
本当なら奈美とまた同じクラスになれたことや、大好きな杏奈先生が担任だったことを二人で喜んでいたはずなのに。
「ねえ奈美。もう泣かないで」
「…だって、…澪は、悲しくないの」
「悲しいよ。悲しいけど泣いても先生が戻ってくるわけじゃない。だからお願い。もう泣かないで」
それでも奈美は泣き止まず、長い長い沈黙のあとに彼女はゆっくりと口を開いた。
「なんで。…なんで、神様はアンナ先生を見捨てたんだろうね。神様が憎いよ」
奈美の頬をつたう涙がゆっくりとしたたり落ちた。
澪はかける言葉が見つからなかった。