僕らのチェリー


「キョウも働くことで嫌なこと忘れられるって言ってたけど、今ならキョウの気持ち分かるよ」


──キョウ。

懐かしい名前を聞いたような気がする。

実は恭介とは、彼が謹慎処分を受けた日から会っていない。

謹慎期間を過ぎても、一週間が立っても、恭介の席はずっと空っぽでそのまま夏休みに入ってしまった。

一、二回、恭介の携帯電話にかけてみたが留守電に繋がるばかりで、澪は恭介が今どうしているかなんて知る由もなかったのだ。


「あれ、聞いてない?ちょうど謹慎終わる頃、あいつのおばさんが倒れたんだよ」

「えっ」澪は目を丸くした。

「働きすぎによる過労だってさ。元々、おばさん体弱かったし無理してたんだと思う。今もまだ入院してるけど、もうすぐ退院できるらしいよ」


そう言って、ヨネは深いため息を吐いた。


「どうしたの?」

「うん…」


ヨネの煮え切らない態度に澪は首を傾げた。


「ありがとうございましたー」


本を立ち読みしていた中年男性が店を出ると、ヨネは話し始めた。

それは決していい話ではなかった。


「きのう、あいつここに来たんだけど、おばさん倒れたこと相当こたえたみたいで。
キョウ言ったんだ。
もう学校やめようかなって。
やめて働くか迷ってた」
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