僕らのチェリー
「大丈夫。こいつ、ちょっとやそっとで起きないから」
とその奥にいたヨネが手招きした。
澪は中央に敷いた布団になんとか近寄らないように、忍び足で窓元に向かった。
「きょうも朝まで働いてたと思うから、たぶん夕方になるまで起きないよ」
ヨネは慣れた手つきで窓を開けた。
生暖かい風が部屋の中へと入っていく。
澪はコンビニエンストアで買った缶ジュースの一本をヨネに渡し、もう一本は恭介の枕元に置いてやった。
いつもの無愛想な顔が嘘のように、恭介はなんとも可愛いらしい寝顔をしていた。
無防備なその様子に澪はふっ、と吹き出す。不覚にも可愛いと思ってしまった。
「ヨネと恭介って本当に仲が良いんだね」
窓を背にもたれ、ヨネは照れくさそうに頭を掻いた。
「十何年の付き合いだからな。
家は近くだし、嫌でも顔を合わせるから、いつの間にかここにいるのが当たり前になった」
「もう幼なじみというよりまるで兄弟みたい」
「やっぱりおれが兄貴?」
「どっちかって言えば恭介が兄貴っぽいけど。妙に落ち着いてるし」
「おれ、落ち着きないってことかよ。軽くショックなんですけど」
ふふ、と澪が笑うと、目の前は缶ジュースのラベルで塞がれた。
「なに?」
「暑いだろ。残りやる」
「…ありがとう」
受け取りながら、澪は戸惑う。
今更間接キスで緊張する年ではないかもしれないけれど、やはりヨネが飲んだものだと思うと鼓動は正直だった。