僕らのチェリー

恥ずかしさから逃げるように澪は思い切ってそれを飲み干すと、視線が合った。

どきり、とする。

さっきまで寝ていたはずなのに、いつの間にか恭介が無愛想な顔でこっちを見ていた。


「なんで澪がここにいるんだよ」


と、恭介はむくりと起き上がった。


「あれ、起きた?」

「おまえらがうるさいから起きた」


いつになく、恭介の声は低い。

起きたばかりのせいか、その表情はいつもより不機嫌だった。


「恭介。これお土産。あんたにあげる」


お弁当の入ったレジ袋を差し出すと、恭介は黙ってそれを受け取った。


「この前焼き肉おにぎりいっぱい買ってたから、焼き肉弁当のほうがいいだろうと思ってあたしが買ってあげたんだからね。感謝しなよ」


澪が威張ったように言うと、恭介はふっと鼻で笑った。


「澪ってそういう風に余計なこと言わなきゃ、中の下ぐらいの女なのにな」

「なにそれ。意味が分かんない」


相変わらず何日会っていなくても、恭介の毒舌は衰えることを知らなかった。


「あんたもその辛口がなきゃ、中の下ぐらいの男なのにね」


そう言い返すと、恭介はくっくっと肩を揺らして小さく笑った。

それを見て、澪は安心した。

なんだ。

思ったよりも元気そうで良かった。

恭介のお母さんが倒れたと聞いて驚いたが、恭介はいつもと変わらなかった。

ただ少しだけ頬がこけて痩せていたのが気がかりだったけれど、時間を切り詰めて働いているせいであまり食べてないのだろう。

この時澪は母一人子一人で暮らすことがどんなに大変なことか思い知らされた気がした。
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