僕らのチェリー


「笠原、きょう恭介に話したいことがあってここに来たんだろ。言わなくていいのか?」


ヨネが澪の背中を押すように言った。

澪は頷いて、恭介と向かい合った。

米粒を口の端につけた恭介はきょとんと不思議そうにしている。


「…ありがとね」


と澪は素っ気なく言った。

何度も言おうとして、やっと言えた言葉。

やっぱり恭介にこの言葉は照れくさかった。


「おれ、おまえにお礼言われるようなことしたっけ」


そういって恭介は目を逸らした。


「恭介が奈美の彼氏を説得してくれたんでしょ。別れてから、奈美すっきりしたみたいに明るくなった。
だからありがとう」


恭介はうんともすんとも言わずに布団の上で横になった。

それから澪に背を向けて煙草を吸い始めた。

苦い香りが部屋の中に充満した。


「人がお礼言ってるんだから、黙ってないでなにか言ったらどう?」


やっとこっちを見たかと思えば、恭介は顔を背けて煙草を灰皿に押し付けた。

その仕草はいつもよりぎこちない気がした。

澪が怪訝に思っていると、ヨネがにやにやしながら耳打ちをした。
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