僕らのチェリー
家を出ると、外はすでに真っ暗だった。
自転車のライトを点けていると、ヨネがサドルに跨った。
「送ってく」
「えっいいよ。ヨネの家ここの近くなんでしょ。遠回りになっちゃうよ」
「いや、実は送ってくついでにちょっと寄りたいとこあるから」
「寄りたいとこって?」
「とにかく乗れよ」
昼と比べて、風は少しだけ冷たかった。
ヨネが自転車を漕いで、澪はその後ろで立ち乗りをしている。
女一人を乗せているのにも関わらず、すいすいと前へ進むスピードと、近くで見るヨネの広い背中に、やっぱり男の子だなあと実感した。
「ねえ寄っていきたいとこってどこ?そこまで自転車貸してあげるよ」
「えっいいの?」
「うん。自転車は後で返してくれればいいし」
するとヨネは少し考えていった。
「笠原も来る?」
「どこに?」
「実は寄っていきたいとこって学校なんだ」
「夏休みで閉まってるのに、何しに行くの?」
なぜか、ヨネは小さく笑った。
「さてきょうは何日でしょう?」
自転車のタイヤが小石にぶつかって、ヨネの肩が微かに揺れた。
きょうは八月四日。
学校に行くことに何の関係があるのだろうか。
ヨネは答えた。
「杏奈先生が亡くなった日からちょうど四ヶ月が経つんだ。だから一年忌じゃないけどお参りに行こうと思って」
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