僕らのチェリー


「あの事故の時、ぶつかった拍子に落としたのか中身は何も入ってなかったんだ。ここに来て探してみたけど、やっぱり何もなかった」


はは、とヨネが乾いた笑顔を見せた。


「運悪いよな。そういうものが手元にあれば、少しでも救われる気がするのに、結局残ったものはなに一つないんだ」


ふと、あの横断歩道で先生が走ってくるのが見えた。

赤い箱を持って、手を振っている。それは幸せそうで今までに見たことのないとてもきれいな笑顔だった。

ひらひらと舞う花びら。

桃色の花びら。

先生がゆっくりと消えていく。

一緒に築き上げてきた思い出も全てがなにもかも消えていく。

残ったのは悲しみだけ。

彼の中で渦巻いている悲しみが、澪に乗り移ったかのように形として現れた。


「笠原。どうした?」


彼が驚いた顔をしてこっちを見た。

次々と溢れ出る涙に澪は戸惑いながら、彼に心配かけまいと首を横に振った。
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