僕らのチェリー
「もう帰ろうか。ごめんな、遅くまで付き合わせて」
彼は慰めるように澪の肩を優しく叩くと、そばに置いていた自転車に跨った。
「帰ろう、笠原」
澪は首を振って、その場を動かなかった。
心配したヨネが自転車を降りて澪の元に駆け寄った。
丸っこい瞳と目が合った。
彼は優しい。
先生がいなくなっても変わらない態度。
本当は辛いのに。
辛いはずなのに。
「ヨネは今でも先生を好き?」
どうしてあたしはこんなことを聞いてしまったのだろう。
彼の表情がみるみるうちに曇っていく。