僕らのチェリー

プルルル───。コールの音は数秒して止まった。


「今、おれバイト中なんだけど何の用だよ」


受話器の向こうから相変わらずの無愛想な声が聞こえた。


「蝉ってうるさいね」

「はっ?蝉がどうかした?」

「あっ今、蝉が木から落ちた」


バタバタと羽を懸命に動かして、やがてそれは命を絶った。

短い一生を終えた瞬間だった。


「おまえ、今どこにいんの?」

「学校」


間を置いて、恭介はいった。


「バイトもうすぐ終わるから、そこで待ってろ。すぐ行くから」

「ねえ恭介」

「なんだよ」

「本当に学校やめるの?」


彼は押し黙った。

それから小さく答えた。


「別にやめねえよ」

「ふうん、そう」

「とにかく今から行くから待ってろよ」


答える間もなく、恭介は一方的に電話を切った。
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