僕らのチェリー

長い沈黙の後、恭介はいった。


「だからなんだよ。そんなの泣くほどのことかよ」


憎たらしい笑みを浮かべて、ばからしいと吐き捨てる。

それにむっとして、澪は顔を背けた。


「恭介には分かんないよ。あたしの気持ちは」

「分かるよ」すぐに恭介は答えた。

「分かんないよ」

「分かるよ」

「分かんない」


頑として譲らない澪に恭介は何度目かのため息を吐いて、夜空をゆっくり見上げた。

真白い吐息が上がっていた。


「この空と比べたらおまえの悩んでることなんかちっぽけだ」


澪も後を追うように見上げるとそこには星の光がまばらに輝いていて、まるで恭介と二人しかいないように感じさせる、広い、大きな空が一面に広がっていた。


「おまえが悩んでることはちっぽけなんだよ。
結局お前はうじうじ悩んでいるだけで、実際は何も行動に移してない。
そんなのはただの悲劇のヒロイン気取りだ」


恭介の言葉が胸に突き刺さる。

そんなことは自分自身がよく分かっている。

携帯電話だって未だに返せていないし、今だってあんな事を言われたぐらいで、もうヨネに会いたくないと思っている自分がいる。

気持ちを伝えていないのに、自分はなんて臆病者なんだろうと思った。
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