僕らのチェリー
「お前ら、いつまでもなにめそめそと泣いてるんだよ。いい男が揃って涙流して情けないな」
始業式が終わり、教室に戻るまでの廊下で、たまたま前を歩いていた彼とその友人らの会話を耳にした。
場違いに明るく振る舞うヨネに対し、友人らは少し戸惑っているようだった。
「なんだよ、ヨネ。お前が一番アンナ先生のこと好きだったじゃねえか。なんでそんなに元気なんだよ」
友人の一人が荒々しく言った。
「いつもいつもアンナ先生ってくっついてたくせに」
「そういやおまえ、アンナ先生の葬式に来なかったよな。何でなん?」
「別に。他に用事があったんだよ」
と彼は小さく答えた。
澪はその一瞬、彼の表情が曇ったのを見逃さなかった。
「どんな?」
「何でもいいだろ」
「何でもいいことないだろ。言えよ」
不穏な空気が彼らを包んでいる。
しつこく詰め寄る友人に困り果てた表情を浮かべている彼を見て、澪が一歩足を踏み出したときだった。
「ヨネは最低だよ」
後ろからそんな声が聞こえた。