僕らのチェリー

あまりにも意味不明な言動にしばらく呆気にとられていた澪だったが、すぐに我にかえって彼の後を追った。

恭介は自転車に乗って道を渡ろうとしているところだった。


「あんたは一体何がしたかったのよ」


澪が叫ぶと恭介は自転車を止めてゆっくりと振り返った。彼の口元はまだ小さく笑みがにじみ出ていた。

彼は聞き取るのがやっとの小さな声でゆっくりと呟いた。


「好きなものを求めることは決して悪くないことなのに、人間ってどうして我慢するんだろうな」


その時、月明かりの下で笑う彼の姿がどこか寂しげに見えたのは単なる気のせいだったのだろうか。

遠くで蝉が鳴いていた。
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