僕らのチェリー
通り道の小さな公園のベンチに座り、顔に降りかかる雪の冷たさが身に凍えた。
二人は、杏奈先生と彼は付き合うのかな。
澪はコートのポケットから携帯電話を取り出した。
奈美にでも相談してみようか。でも彼女はきっと彼が先生を想う気持ちを知らない。そしてあたしが彼を想う気持ちも。
次々と画面にメモリーを表示して、ばっと目に浮かんだのは<橘恭介>。
この時はまだ恭介とそれほど仲は良くなかった。ただ同じクラスメートというだけで、挨拶を少し交わす程度の仲だった。
でも恭介は彼と幼なじみでいつも一緒にいると聞くから、恭介は彼の気持ちを知っているのだろうか。
知らないかもしれない。
知ってるかもしれない。
どちらにしても澪は誰かと、誰でもいいから話をしたかった。
このままじゃ冷たい雪に胸が張り裂けそうで寂しさに負けてしまいそうだったから。
「…もしもし」
その声で恭介が不思議に思っているのが分かった。
今までだって一度たりとも恭介に電話をかけたことはなかったから無理もないだろう。
まさかこの日初めて恭介と挨拶以外の会話を交わすことになるなんて澪は思いもしなかった。