僕らのチェリー


「ごめんね、突然。びっくりした?」

「いや、いいけど」

「今、大丈夫?」

「ああ」

「バイトじゃないの?毎日放課後にバイトしてるって聞いたよ」

「聞いたって誰に。ヨネ?」


ちくり、と胸に突き刺さる。


「う、うん」

「ふうん。あいつお喋りだからな。どうせ他にもおれの悪口でも言いふらしてんだろ」

「そんなことないよ。橘くんは頑張り屋さんだってヨネが言ってた」


受話器の向こうで彼は無言になった。


「…なに?」

「いや別に。それよりおれに何の用?用ないなら切るけど」

「えっ」

「たいした用じゃないんならかけてくるなよな」


ぶっきらぼうな口調が冷たい。

澪はやっぱり噂通り、彼は冷たい人だと思った。


「おい聞いてる?マジで切るぞ」

「あっちょっと待ってよ」

「…なに?」


澪は押し黙った。

どうしよう。

何を話せばいいのか分からない。そもそもなんであたしは恭介に電話したんだろう。

澪が少し後悔していると電話の向こうで彼の口から思いがけない言葉が出た。
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