僕らのチェリー
「二人が付き合うのも時間の問題か」
「なんであんたにそんなこと分かるのよ」
「アンナ先生も所詮教師の前に一人の女だから。年下の若い男に好かれるのはさぞかしいい気分だろうよ」
「先生はそんな人じゃない」
「どうだか。ヨネに色目使ってることぐらい、おまえも見てたら分かるだろ?
あれは生徒を見る目じゃねえよ」
いつだか杏奈先生が言っていた。
「もう少し遅く生まれていたら、彼を好きになっていたかもね」
あの言葉を聞いたときからなんとなく予想はしていた。
杏奈先生は彼のことを───。
「例えそうだとしても、先生は悪いことなんかしてない。教師とか生徒とか年も関係なく、先生は真剣にヨネと向き合ってるだけなんだから」
「へえ」
「なによ、へえって」
「聞くけど、なんでおれに電話なんかかけた?」
「えっ」
「当ててやろうか?誰かに話を聞いてもらいたかったからだろ?先生とヨネがキスしてるとこを見てショックだったから笠原はおれに」
「ちょっと待って。なんであたしがショック受けなきゃいけないのよ」
「違えの?」
「違うよ。適当なこと言わないで」
むきになって思わず大声を出してしまった。
周りにいた人々から視線を感じて俯いていると、目の前が急に薄暗くなった。
コンバースのスニーカーが目の前にあって、薄暗くなったのはその人の影のせいだと分かった。
「じゃああれはおれの見間違いか」
見上げると彼は携帯電話を耳に当てたまま冷たく言い放った。
「笠原が泣いて見えたのはおれの見間違いだったんだな」