僕らのチェリー

翌日の朝、澪は奈美を寝かせたままこっそりと家を出た。

自転車を漕ぎ続けて十分。炎天下の中、溢れる汗を拭いながらコンビニエンストアの店内へと足を踏み出した。

昨晩からずっと考えていたことだった。

最初は恭介に相談しようと思ったが、今彼は母親が倒れて大変な状況にある。だから迷惑をかけたくない。

それに恭介は健二先輩に逆らえないと言っていたから、力になってくれるか不安でもあった。


「おう笠原。おはよう」


きょうもヨネはカウンターの前で煙草の整理をしていた。

手慣れた仕草に澪はじっと見入っていると、いつもと様子が違うと感じたのかヨネが振り返った。


「何かあったのか?」


と彼は首を傾げる。


「ちょっと相談したいことがあって」


澪はきのうの出来事をゆっくりと話し始めた。

普段温厚な彼だったが、みるみるうちに眉間に皺が寄って、話が終わる頃には怒りを露わにしていた。


「おれがそいつに話つけてやるよ」


いつになく低い声で、彼は言った。
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