僕らのチェリー
「でも恭介が言ってたよ。あの先輩には逆らえないって。怒ったら何しでかすか分からないって言ってた」
「だからって友達がそんなことされて黙って見過ごすわけにはいかないだろ。
笠原、今すぐ奈美にその健二って男の連絡先聞いてきて」
「聞いてどうするの?」
「本当はぼこぼこに殴り返してやりたいけど、奈美が好きになった男だ。まずは話し合うことが先決だろ」
ヨネは話し合わないと何も始まらないから、と続けて言った。
澪はポケットからメモ用紙を取り出した。
実は昨夜こんなこともあろうかと思い、奈美が寝ている隙を狙って武田健二の携帯番号をメモにとっていた。
さっそくヨネはその男の番号に電話をかける。
「すみません。奈美の友達の米原と言いますけど話があるんで今すぐ来てもらえませんか?」
沈黙が怖かった。
しばらくたって、通話を切ったヨネの目が澪に向けられた。
「昼にバイト終わったあと駅前で会うことになった。とりあえず笠原は家に戻ってろよ。また後で連絡するから」
「あたしも一緒に行く」
「でも」
「大事な親友を傷付けたんだもん。その男に会って一発殴るまであたしの気が済まない」
澪はかたくなになって一緒に行くと言って聞かなかった。困ったように眉を寄せて、それから諦めたのかヨネは白い歯を覗かせた。
「一発殴る前に、まずおれに殴らせろよ」
「うん」
ヨネが差し出した拳に、澪は自分の拳を軽く小突いた。