竜と孤独な花嫁
竜の話


はるか昔、天上界とよばれる創造主は大地を創り、空を創り、その世界を生命で満たした。

その中でも一番最初に創られたのが神竜だと言われている。

創造主と変わらぬ気の遠くなるような寿命と、賢く教養を備えた強く羽ばたく神竜はなぜ創られたのか、知るものは誰もいない。

類まれなるのは寿命だけではなく、創造主より与えられたその特異な姿変化であり、神の遣いと謳われるのは天上人との対話が可能となる人なる器へと姿を変えることが出来る唯一の存在である。

古参の神竜は千も二千も、それ以上も生き、空を翔る。

永く生きると歳を忘れるのだと古参達は言う。

古参達の歳を数える者もおらず、彼らの正確な歳を知る事も、自分の歳を数える事も忘れた。

群れることの無いその種族は、散り散りにただ空を翔け、天上のどこまでも続く蒼の世界を見つめ、地上を見下ろしただそこに存在し続けた。

鱗は何よりも固く、開いた口からは鋭い歯が覗き、鋭い瞳は紅く輝く。

濃紺色の神竜は生まれた瞬間を覚えていない。

小さな小さなチビだった頃は育ての古参神竜達によって、あれやこれや甲斐甲斐しく育てられ数百年共に過ごした後、住み慣れた土地を去った。

独り気ままに空を駆けては、地上界の移り変わる景色を眺め時を過ごしていく。

それが濃紺の鱗をもつ神龍の何百年と変わらない日々だった。

< 2 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop