求めよ、さらば与えられん
気付けば頬に触れていた。


この人は誰よりも心を殺してきたんだろう。自分のことを後回しにしてきたんだろう。



「お前は変わったな」

「変わった?」

「あぁ……初めは怯えながらも必死に挑んで来ていた。 だが今は俺の目を見ても怯みもしない」



この瞳が冷たいだけじゃない事を知っているから……他国に恐れられようとも、マクブレインの民から愛されている事を知っているからよ……。


国を愛するあまりの冷酷さを誰が責められるというのだろうか。



「私に恐れてほしいの?」

「さぁ? どうだろうな」



ジーン王子の手が私の頬に触れた。もっと側にいきたい。歯痒い距離感に切なさを覚えた。これ以上触れていたら欲が止まらなくなってしまいそうだった。離れようとしたら突然抱きしめられた。


どうして?ううん、理由なんてどうだっていい。グレース王女の存在を知りながらも、今だけは私だけのジーン王子だと思いたかった。



「この戦いが終わったら話す事がある」



耳元で囁くとスッと離れたジーン王子は「そろそろ寝ろ」と言って何処かへ行ってしまった。


囁かれた耳を押さえて、胸の高鳴りが治まるのを待った。不謹慎にも幸せを感じずにはいられなかった。





< 160 / 334 >

この作品をシェア

pagetop