求めよ、さらば与えられん
笑顔を崩さないグレース王女。だけどその瞳は潤んでいた。



『貴女程の想いと覚悟がわたくしにはなかった…ただそれだけの事』

『グレース王女……』

『わたくしが言うことではないけれど、どうかこれから先ずっとあの人の安らげる場所で居てあげて』



『はい』と返事をすると、グレース王女は少し口角を上げ、ゆっくり立ち上がった。『そろそろ失礼するわね』と言って扉の方へ歩き出した。けど直ぐに足を止めて振り返った。



『貴女はこれからも“ただのベアトリーチェ”でいるの?』

『……え?』

『詳しいお話を伺った訳ではないけれど、言わせて頂くわ。 ジーンの隣に居たいのなら、王女という肩書きを持つべきだわ』

『…………』



そんな事を言われるとは思ってなくて、上手い言葉が見つからなかった。



『ジーンや国王陛下がお許しになっても、周りの者たちは“ただの薬師”がジーン王子のお相手だなんて納得しないでしょう。 自由に生きてきた貴女にとって、王女という肩書きはとても重い枷となるけれど、武器にもなるわ。 望む場所に辿り着きたいのならば、覚悟を決めなさい』



ずっと笑顔だったグレース王女の表情はいつのまにか真剣で、その時の鋭い視線は今でも忘れられない。



「ビーチェ。 もうすぐでお城に着くよ」



馬に乗ったヘンリーが、馬車の中を覗きながら声をかけてきてハッとした。



「へ!? あ、本当だ!」



昨夜の事を考え過ぎていて全然景色を見れてなかった。気付けばよく知る風景が広がっていて、バルドックに戻ってきたんだなと実感が湧いた。





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