求めよ、さらば与えられん
王城敷地内に馬車が入っていくと、気分は下がっていった。ここにいい思い出は一つもない。ただ胸がギュッと苦しくなるだけ。


馬車を降りる時、ヘンリーが手を貸してくれた。


周りの人たちが一斉に下がり、頭を下げた。



「おかえり」

「…………」



現バルドック国、国王のアゼル・バルドック。私の兄でもある。けど、『おかえり』と言われてもピンとこなかった。返す言葉が見つからず、私は腰をおり頭を下げた。


ヘンリーの手を握って助けを求める私は、幼い頃と何も変わっていないんだと情けなくなった。


部屋へはヘンリーが案内してくれた。



「酷い態度とっちゃったよね……」

「アゼル陛下はビーチェの気持ちを分かってくれているよ」

「…………」

「他愛もない話から距離を近づけていったらいいんじゃないかな? アゼル陛下はビーチェの事を本当に大切に思って下さっているから、ビーチェの歩幅に合わせてくれるよ」



大切に思ってくれている……その言葉にもやっぱりピンとこない。ジーン王子から軽く話は聞いてるけど、私はアゼル陛下と会うのは今日で2度目。言葉だってほぼ交わしたことはない。


私がアゼル陛下の事を信じられるだけの材料はまだ一つもない。





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