求めよ、さらば与えられん
中途半端に差し出したお茶の入っている瓶を、膝の上に乗せた。



「クリストフ王子、ありがとうございます。 眠る前に頂きますね」

「無くなったら言って? また作るよ」

「ですが__」

「これは口実なんだ」

「え?」

「仲良くなるための口実。 貴女のことがずっと気になっていたから」



それは一体どういう意味で?それにいつから?細かく本人に聞くのもね……。



「あはは、ベアトリーチェは本当に顔にでるね」

「え!? 出てました!?」



ロアナから思ってることを顔に出さない様にと忠告されていたけど、どうしても普段は少し気が緩むのか、素の自分が出てしまう。



「この国の危機を救ってくれた時、貴女の力強さとあの力に魅了されたんだ。 あはは、そんな顔しないで。 仲良くなって貴女の力をどうこうしたいなんて思ってないよ。 ただベアトリーチェと一緒に居たら僕も強くなれる気がしたんだ」



クリストフ王子が瞼を伏せると、長いまつ毛が影を落とした。外はとてもいい天気なのに、ここだけ急に曇ってしまったかのような空気。


膝の上の瓶を両手でギュッと握った。



「甘いものはお好きですか?」

「え? あ、うん。 好きだよ」



突然何を言ってるんだと言わんばかりの顔をされた。



「明日の訪問時にはクッキーをお持ちしますね。 頂き物なんですけど、街で評判のお菓子屋さんのものらしいですよ」

「それはきっと美味しいだろうね。 僕はお茶を用意して待ってるよ」




『強くなれる気がする』と言った時、クリストフ王子の瞳が揺れ動いた気がした。それにクリストフ王子の言葉に嘘はない気がする。演技してる様にも思えない。そもそも演技する理由も思い浮かばない。


2人でまともに話したのは今回が初めてだというのに、何故だか放っておけないと思った。そんな事をジーンに言えば、彼の眉間には深いシワが縦にくっきりと入ること間違いなしだろう。





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