求めよ、さらば与えられん
その晩、メイドさんにお願いして銀の茶器とお湯を部屋まで持ってきてもらった。


銀の茶器を見ていたら憂鬱な気分になった。まだ使ってもないのに罪悪感が胸に広がっていく。



「そなたが胸を痛める必要はない。 それに、毒の反応が出なければあの者の疑いも晴れよう。 さすれば心置きなく顔を合わせられるというもの」



銀食器は毒が入っていれば色が変色する。それを分かっていてクリストフ王子は銀食器を勧めてくれた。私の失礼な態度を咎める事なく、彼はさぞ当たり前だと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。



「悲しいね……」

「王族や貴族は守るものが多いゆえ、時にそれは手段を選べぬ状況を作り出す。 そして追い詰められた者はなりふり構ってなどおられなくなる」

「……王族や貴族だけじゃないよ。 みんな守りたいものがある。 家族や友達、恋人、地位、名誉、富、自尊心……挙げだしたらきりが無い」



守るものはどんどん増えていく。増えていくのに私たちはそれらを捨てられない。だから一生懸命になれるし、強くなれる。その分道を踏み外したら歯止めがきかなくなってしまう。


私はどうしたい?どうなりたい?


[幸せが溢れる世界を]_そんな甘ったれた理想しか思い描けない私は、幸せを語る資格など無いのかもしれない。


_コンコンコン。


振り返ると開けたままにしていた扉の側にジーンが立っていた。





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