求めよ、さらば与えられん
目が霞む。意識が朦朧とする。


下唇を思い切り噛むと血の味が口の中に広がった。



「もう間もなく戦争が始まるわ」

「……え?」

「みんながあなたを奪い合うのよ? そんな存在として生まれた事、誇らしいでしょう? 嬉しいでしょう?」

「何を言って__ッ! 嬉しいわけがないでしょう!? 私は争いなんて望んでない!!」



争いなんてなくなればいい!そう思う私が争いの火種となってしまった。なんて最低で最悪なんだろう。


私が死ねば……争いは起こらない?この人の思うツボにはならない?そんな考えが一瞬頭を過ぎった。けど、直ぐに頭に浮かんだのはジーンの穏やかな顔だった。


あれ程ジーンには『殺して』と言っていたくせに、私自身は本当は死ぬ事を恐れてる。



「どうして……こんな事が出来るの? どうして、人々を争わせようとするの?」

「……世界を壊したいからよ」

「世界を、こわ…す……?」

「わたくしはわたくしをこの世に産み落とした世界が憎い。 こんな力を授けた天が憎い。 誰からも愛されることのない自分自身が憎くてたまらない」

「国王陛下がいるじゃない! クリストフだっている!!」

「ヴィクトルの心の中には未だにロザリー_ジーンの母親が生き続けている。 そして、わたくしによく似ているクリストフをわたくしは愛せない。 それを知ってか知らずか、クリストフもわたくしに近づこうとはしないわ」



冷静で落ち着き払った表情を浮かべているけど、瞳の奥はどことなく儚げに見えた。この人の抱える闇は深く、深く…今の私に理解するのはとてつもなく難しい事だった。



「そろそろ貴女との遊びも終焉を迎える事となるでしょう。 ここで外の様子を見ているといい。 そして愛するジーンの命の炎が消える瞬間を…世界が崩壊する様をじっくり眺めるといい」






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