求めよ、さらば与えられん
ジーンを待っている私たちの間には会話はない。不思議と口が開かない。


クリストフは汗が滲む私のおでこを濡れたタオルで丁寧に拭ってくれている。クリストフはタオルをテーブルの上に置くと微笑んだ。



「来たみたいだね」



_バンッッッッッ!!!!



「ベアトリーチェ!!」



クリストフの言葉とほぼ同時に勢いよく扉が開いた。


息を切らしたジーンに力一杯抱きしめられた。縋り付くようにジーンの首に腕を回した。手が震える。


顔を両手で包み込まれる。目の前の漆黒の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。



「怪我は!?」

「怪我はないよ」



怪我はないけど……。



「怪我はないけど、毒の侵食が進んでる」



クリストフの言葉に直ぐ様反応するジーンとアウロラ。


視線を落とすと毒の根を張る指先が見えた。さっきよりも薄くなっている様な気がするけど、毒は消えていない。



「一体何があった」



ジーンの目はまるで敵を見るかの様だった。2人の関係を知らない人がこの状況を見たら、兄弟だとは思わないだろう。



「母様がベアトリーチェを攫ったんだ」

「どういう事だ!? 何故パメラ王妃がベアトリーチェを攫う必要がある!?」

「…パメラ王妃がエデ伯母さまだったの」

「何を言うておる!! そうだとしたらわらわが気付かぬわけがないであろう!!」



そう、なんだよね……。


エデ伯母さまとアウロラは面識がある。ちょっとした顔見知り程度の仲じゃない。そんなアウロラが分からないわけがない。



「母様はとても用意周到でね、まやかしの香で姿を変えているんだよ」

「え? どういう事?」

「ジーン兄様、母様の髪色と瞳の色は何色だと思う?」

「黒髪に銀の瞳をしている」






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