求めよ、さらば与えられん
クリストフは「ふー…」と息を吐きながら側の椅子に腰を下ろした。空を見上げるように天井を眺めている。


ベッド脇にゆっくり座ったジーンは、私の頭を優しく撫でた。


あんなに乱れていた心が静まっていく。



「幼い頃、庭に一匹の猫が迷い込んできたんだ」



クリストフは天井を見上げながら話をした。



「真っ白な毛並みのその子はまだ小さかった。 首輪をしていなかったから、僕が飼うことにしたんだ。 とても警戒心の強い子で、中々懐いてくれなかったけど、仲良くなりたくてオモチャや食べ物で必死に距離を近づけようとした」

「名前は?」

「え?」

「名前はなんて言うの?」

「ネージュ……雪のように真っ白だったからそう名付けたんだ。 今思えばもっとひねった名前にしてあげれば良かったかなって思うよ」



器を作るように両手のひらを丸めるクリストフ。子猫を抱いているかのような手つき。そして手のひらを見る目は優しかった。



「ある日の晩、ネージュが僕のベッドに入ってきたんだ。 嬉しくて泣きそうになった」

「私もレミーが初めてベッドに潜り込んできた時、嬉しかったのを覚えてる」



パパとはあまり会えなくて、ヘンリーも留守がちになった時、ベッドにレミーが居てくれるのがとても心強くて安心した。


小さなレミーは私をいつも温かい気持ちにしてくれた。



「でもね、僕はネージュを殺してしまった」



クリストフの表情から柔らかさがなくなった。





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