【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
「いい飲みっぷりだな。あれだけ喘げば、な」
「ちょっ……!」


振り返ると男は傷に長い指先をあて、ベッドに腰掛けた。


「ねえ、それで?」
「昨夜、キミがマンションの前でうずくまっていたところを俺が通りかかった。キミがあのマンションの住人なのは想像がついたけど、エントランスの解除のしかたも分からないし、ドアを開けたところでキミの部屋も何階だか知らない。寒空の下、置き去りにするわけにもいかないしね」


タクシーに乗ってマンションに向かったのは確かだ。武田さんが私をタクシーに乗せて運転手に私の住むマンション名を伝えたのはなんとなく覚えている。到着した先で降りたのは予測できる。


「キミを車に乗せてこの部屋に連れてきた。そして帰るつもりだった」
「でもスイートルームなんて。シングルで良かったじゃない。初めから泥酔した女をやり逃げするつもりで」
「あいにくシングルもツインも満室だった。言っておくけど誘ったのはキミのほうだ。俺のスーツの裾をつかんで離さなかった。俺も男だから紳士でいられる自信はないってちゃんと伝えたよ」


にわかには信じられない。でも自分の記憶がない以上、それを肯定することも否定することもできない。


「そんなこと……。証拠でもある?」
「“ひとりにしないで、タチバナさん”、って言ってたな」
「橘さ……」


脳裏に蘇る。2週間前、カフェで頭を下げる彼の姿。その隣に浮かぶ女の子の幻想。あのとき言えなかった台詞。言ったところでどうにかなる話でもなかったけれど。

胸がチクリとした。

コポコポと音を立てて沸くポットに現実に戻り、私はコーヒーを入れた。

男……雅さんの言うことには嘘がないかもしれない。背格好も橘さんと似ているし、酔った私が勘違いして誘った可能性もある。
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