【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
§甘いキスは意地悪に

上昇を続けるエレベーター。ビルたちは夕陽に照らされ、オレンジ色に輝く。ポーンと音を鳴らして加速度を下げ、扉が開く。唐澤さんが深々とお辞儀をして私を出迎えた。


「雅副社長がお部屋でお待ちです!」
「なに、そのニヤニヤした顔は」
「いえいえいえいえ! なんでもこざいませんっ! お待ちですから早く!!」
「ちょっ、危ないでしょ」
「唐澤、あなたのために秘書課で待機しておりますんで!」


身体さんは文字通り私の背中を押した。

ふかふかした絨毯は今でも慣れない。副社長室の前で深呼吸して、それからドアをノックした。

かちゃり、と音がしてドアが開いた。鋭い視線で私を見下ろす。


「忙しいところ悪いね」
「いえ。失礼します」


雅さんがドアを支え、開けている間に私は部屋の中に入った。ほんのり漂うイランイランの香りに胸が締め付けられる。さっき唐澤さんといたときとは全く違う空間だ。雅さんはドアを閉めると、私の前に来た。立ちはだかるように。

ニコリともしない雅さんは別人のようだ。まだ怒っている。何に腹を立てているのか、見えない。でも目をそらすのも負けているようでイヤで、私は必死に雅さんの目を見つめた。


「唐澤から聞いた、タチバナと寄りをもどしてないそうだな」
「……はい」
「なぜ嘘をついた?」
「それは……。嘘をついたことは謝ります」


雅さんの未来を思って、そして、会社の未来を思って。私は雅さんと別れた。
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