【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔

*―*―*

「じゃあ唐澤さん、私はこのあと雅さんと合流するから、あとはよろしくね♪」


宴もお開きになり、藍本さんはさらりと言い放ち、会場をあとにした。ああ、やっぱり。今夜はふたりの悪巧みだと確信した。

人が疎らになっていく会場はどことなくさみしい。スタッフがテーブル上を片付けていく。

そんななか、ぽつんと立ち尽くす女の子がひとり。恨めしそうにオレを見つめている。怒ってるんだろうなあ。


「さ、咲希さま……今夜はこの唐澤めがお送りいたします」
「……お願いします」
「あ、ありがとうございます!」


ありがとうございますなんて、返答は合ってないんだろうけど、今のオレの精一杯だった。オレの運転するクルマに乗ってくれてありがとう的な。

咲希さんを先導するようにななめ前を歩く。エレベーターに乗せて地下駐車場へ向かう。こんなことならバレーサービスでクルマをロータリーに回してもらうんだった。

薄暗い地下駐車場は遠く足音はするものの、無機質な空間だった。遠くでエンジンをかける音がした。夜だし、怖がらせてないかな、と不安だけど、咲希さんに声を掛けるのもはばかられて、無言で歩く。

カツカツと彼女のヒールがコンクリートと突く音が背後からついてくる。その音とリンクするようにオレの胸が鼓動する。
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