【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
雅さんはクスクス笑いながら姿勢を戻した。タクシーの運転手さんはゴホンと軽い咳払いをする。私は胸元を確認した。左、右にひとつずつ赤い斑点がある。確かに襟ぐりより下の位置ではあるけれど、お辞儀をしたら見えてしまう位置だ。


そうこうしているうちに会場となっているホテルについた。ベルボーイがドアを開け、私は雅さんとともに降りた。吹き抜けの天井からつり下がる豪華なシャンデリアは眩しいほどに輝き、ロビーの奥ではクラッシックの生演奏もされている。中央には有名な華道家が活けた花、壁には大きな油絵。ゴージャスを絵に描いた空間。圧倒されている私の手を取り、雅さんはゆっくりと歩く。

そんな私たちをあたりのお客さんは見ていた。正確には私たちではなくて、雅さん。いつもよりドレスアップした雅さんはいつも以上に目を引く。

正面の階段には赤い絨毯が敷かれ、雅さんにエスコートされて一段一段登った。
まるで舞踏会にやってきたお姫さまのような気分だ。

入口で受付を済ませる。会場には50人ほどの参加者がいた。年配者から二十歳くらいの若者まで、老若男女入り混じっている。でも共通していえるのは、服装はどこか華やかなこと。スーツといえど、私が着るような一般的なブランドの服ではないのか、庶民の匂いがしない。

雅さんの存在に気づいた数人のマダムが雅さんに寄ってきて挨拶をする。私は少し離れたところでその様子を見ていた。人気あるんだ、社交界でも。マダムキラーだ。

しばらくしてもどってきた雅さんは上から私の胸元を艶のある瞳でのぞき込んでいた。


「ちょっ……雅さん……」
「結構見えるね、痣。お辞儀したら見えそうだし、でも胸元押さえながらお辞儀したら変に思われるしね。あ、あそこ」


視線で女性を指した。壁際に立つ若い女性の姿。品のある黒髪をハーフアップにしてハンカチで口元を押さえている。膝丈のAラインのワンピース。ピンクの生地に赤のリボンベルトがアクセントになっている。

いかにもお嬢さま的な。
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