【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
橘さんの隣には別の女の子がいる。女の子のお腹には橘さんの血を引いた赤ちゃんがいる。これから母体から栄養をもらってすくすくと大きくなる。
無事に生まれれば秋には橘さんは父親になる。やわらかなおくるみにくるまれた赤ちゃんを抱く橘さんと女の子の姿。目尻を下げる橘さんのご両親、そしてきっと女の子のご両親。
そこに私の姿はない。
これから橘さんが一緒に歩いていくのは私ではなく、新しい女の子なんだ……。
「紬?」
そう声が聞こえて私は我に返った。目の前にいたのは橘さんではなく、雅さん。さっきまでの鋭くとがった瞳はなく、心配そうに私を見つめていた。
「なにを思い出していた?」
「橘さんと知り合ったころからを」
「そうか」
「優しくて、わけ隔てなく誰にでも優しくて、そんなところに惹かれて……」
「それで」
「一緒にいて安らぐ人で……愚痴もいやな顔せずに聞いてくれて……」
「そうか」
雅さんは頷きながら私の言葉を受け止めている。
「お前、泣いてないんじゃないか? タチバナと別れてから泣いたか?」
「いえ……」