【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
カサカサとバスローブとシーツの擦れる音がくすぐったい。あの夜も橘さんは腕枕をしてくれた。


「なにを思い出していた?」
「クリスマスイブです。橘さんと最後に過ごした夜」
「こうしてホテルに泊まったとか?」
「いえ。私の部屋で」


あの日も仕事だったから大した料理は用意できなかった。でも橘さんは紬が一緒ならそれが一番のご馳走だよと優しく笑ってくれた。プレゼント交換もして一緒にお風呂に入って、ベッドに潜り込んで……。

あのときには女の子とそういうことをしていた。なにも知らずに私は橘さんに抱かれて。

鼻の奥がつんとする。


「泣きたいなら我慢しなくていい。たくさん思い出してたくさん泣いて。そうした方が早く消化できるだろうから」


仰向けに寝ていた雅さんも横向きになった。そっと私の肩を抱く。幼子をなだめるように私の背中をさする。自然と涙がこぼれ落ちた。


「ハニー、甘えて?」


その手の温かさに私はいつの間にか眠りについていた。



*―*―*


翌朝。早めに起きて一度帰宅してから出社した。エレベーターで20階に到着すると出迎えてくれたのは唐澤さんだった。


「おっはようございまーっす! 今日もあなたのために働きます、唐澤です!」


花が咲いたような明るい笑顔を私に向ける。イメージとしてはひまわりだ。背が高いのもあるけれど、夏冬関係なく咲き続ける季節感のない、そして昼夜関係なく咲き続けるひまわり。

昨日に続いて今日もとなると、出迎えたというよりは、待ち伏せだ。私は警戒して唐澤さんを見上げた。
< 66 / 237 >

この作品をシェア

pagetop