【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
翌日。

正式に商業施設誘致案が白紙撤回され、私たち開発2課は候補に挙がっていた2社にお詫びにいくことになった。夕方、私は部長とふたりで担当している会社に伺うことにした。今日は曇天。いまにも泣き出しそうな黒雲の下、重い足取りで先方に向かう。

受付を済ませると迎えにきたのは橘さんだった。前回の誘致の件もあり、うちの部長も橘さんとは面識がある。

案内された応接室には先方の部長もいて、お互いに苦笑いをしていた。今回の決定も上層部の一存で、私たち下の人間には考える余地もない。だからお互いに仕方ありませんね、と。

ご迷惑をおかけしたことを形式的にお詫びし、私たちは応接室をあとにした。


「紬……じゃなかった、すみません、藍本さん」


玄関に向かう途中で後ろから声をかけられた。振り返ると橘さんがいた。


「今お時間ありますか? 前回の誘致の件でいただき忘れた書類がありまして、オフィスに寄っていただけると」


部長はそれを聞いて、俺は先に戻るから藍本は直帰でいい、と手をひらひらさせて出て行った。


「紬。これから夕飯、どう? 直帰でいいんでしょ?」
「え、ええ。書類って?」
「それは、まあ。とってくるからここで待ってて」
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