【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔

「こ……婚約?」


聞き捨てならない単語に私は力を振り絞ってガウン男……雅と名乗る男の肩を押し上げた。わずかに離れてもうひと息というところで再び彼は私の胸に覆い被さる。男の唇は徐々に下りて膨らみに差し掛かった。

もう……これ以上は駄目っ!
たとえ昨夜もっとすごいことをしたとしてもっ!!


「痛っ!」
「あっ……」


とっさに私は彼の頬をひっかいていた。指の先がジンとする。男の頬はきれいなまでに赤い線が3本虹のように弧を描いていた。血も滲んでいた。男はギロリと私を見上げて睨みつける。男が痛そうに右手で頬を撫でている。


「夜と朝じゃたいぶ違うな。キミ、じゃじゃ馬?」
「じゃじゃ馬?」


ひどい。男性に対してこんな暴力を振るったのは初めてだ。合意もなしに行為に及ぼうとするそっちが悪い。引っかかれて当然だ。

男は顔をしかめながら血の付いた指先を眺め、起き上がった。私も布団を胸に押し当てながらズリズリと後ずさる。


「とにかく! 説明してほしいの」
「それが人にものを頼む態度か? キミが勝手に記憶をなくしたのがそもそもの発端だろう? まあ、いい。説明するからコーヒー入れてくれないか」


男はベッドから降りてクローゼットからガウンを引くと私に放り投げた。おそろいのガウンは気に入らないけれど、そうも言っていられない。コーヒーと言われて自分ものどがカラカラなことに気づいた。起き抜けで二日酔いだから水分は欲しがってる。

チェストの上にあるポットの電源をいれ、カップに落としきりのドリップコーヒーをセットする。備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターをグラスに注いで飲み干した。
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